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企業を適切に運営・管理していくためには、組織を取りまとめる仕組みが必要です。その仕組みづくりに不可欠なのがガバナンスです。当記事では、企業の不正防止や市場価値を高めるために非常に重要なガバナンスについて、わかりやすく解説していきます。
ガバナンスの意味とは
ガバナンスとは、英語の「governance」に由来した言葉で、以下のような意味があります。
1.〔国家・君主などが国・国民などに対して行う政治的な〕支配、統治
2.〔学校・企業などの〕管理、運営
3.〔義務などの〕規定
4.〔原則・法令などの〕適用引用元:英辞郎 on the WEB 「governance とは」より抜粋
企業に対してガバナンスという言葉を使う際は、「社内規程等のルール適用」や「企業の管理・運営・統治」という意味になります。
ガバナンスの目的
ガバナンスの目的を上記の意味と照らし合わせてみると、「ルールを守って健全な企業活動をすること」だといえます。ただ、企業内だけで考えてしまうと何のためのルールなのかが不明確になるため、企業倫理や社会規範と関連付けて整備していく必要があります。
ガバナンスという言葉が生まれた歴史
ガバナンスという言葉はアメリカで始まり、概念として形成されていきました。元々は人種差別や公害問題などの批判から、社会倫理を問う形でガバナンスが使われるようになったといわれています。その後、政治家への違法献金など企業の不祥事が起こり、投資家を守るという視点からガバナンスが注目されました。
一方で、日本でも1955年~1973年までの高度経済成長期と呼ばれていた時代では、年功序列や終身雇用などの日本式経営が当たり前になっていたため、企業は銀行によって守られていました。しかし、バブル崩壊後の1990年代以降には規制緩和やIT革命などによって市場は大きく変化し、企業統治の弱い会社の不正が明るみになっていきました。その結果、粉飾決算などの会計不祥事が相次ぎ、「誰のための企業なのか?」が問われるようになったのです。
これらの歴史から、「健全な企業経営をするには、誰が、どのように統治していけばいいのか」という視点から、ガバナンスが重要視されるようになっていったのです。
ガバナンスとコンプライアンスとの関係
ガバナンスを企業倫理や社会規範と関連付けるためには、コンプライアンスへの意識が重要となります。ガバナンスとコンプライアンスとの関係を自動車で例えるなら、以下のようになります。
- コンプライアンスとは、法定速度や標識などのルールを理解・遵守すること。(強制力がある)
- ガバナンスとは、どんな車を選び、どのように運転・整備するのかを判断すること。(運転者の自主性に委ねられる)
交通ルールで考えればわかるように、交通違反をすれば罰則を受け、罰金を支払わなければなりません。また、大きな事故や違反を起こした場合には、刑事処分や免許取り消しになります。
企業も同じで、コンプライアンス違反を起こした場合は、さまざまなペナルティーが発生します。過去にコンプライアンス違反を起こしたという風評により企業活動に支障が出ないようにするためにも、ガバナンスとコンプライアンスとの関係は重要といえます。
ガバナンスが重要視されている理由とは
ガバナンスの目的は、「ルールを守って健全な企業活動をすること」だとお話しました。この前提を踏まえてガバナンスが重要視されている理由をシンプルに表すならば、「時代に沿った適切な企業経営を行うこと」だといえます。時代に沿った適切な企業経営について深堀りしてみると、以下の3つが挙げられます。
情報過多社会への適応
1995年に日本でインターネットが誕生し、2014年には普及率が82.8%に達しました。現代では個人がスマートフォンからSNSやブログなどを通じて情報発信ができるようになり、普及当時と比べて情報量やスピードは圧倒的に増しています。つまり、企業が扱う情報量も増加し、適切に管理できないと企業の信用失墜につながります。インターネットが普及する前は企業秘密にできた情報も、業務委託などのさまざまな働き方ができるようになった現代社会では、正しい情報を素早く発信する企業が評価される時代になっています。
ガラス張りの経営
経営の神様と評される松下幸之助氏は、「ガラス張りの経営」をしていたことが有名です。具体的には、売上や利益、負債状況や在庫数など、新人やベテラン、男女問わず全社員を集めて報告していたというエピソードがあります。戦前では「経営者=資本家」という場合が多く、経営者自身のお財布事情を他人に話すというのは威厳を損ねてしまうと言われていました。しかし、経営者自身が社内で起こっていることを正直に話したからこそ、社員の士気も上がり、世界的大企業を築けたといえるでしょう。
人には知らないものは知りたくなる、見えないものは見たくなるという心理があるため、情報が可視化されていることによって安心感が生まれ、社員が業務に専念できることが期待できます。経営者が誠実であることは、企業の成長と存続においてどの時代であっても普遍的だといえます。
社会とのより良い関係を構築する
世間で言われる優良企業とは、自社で決めるものではありません。顧客や取引先、投資家などが優良かどうかを判断して蓄積された結果といえます。ルールを守って健全な企業活動を行い、顧客や投資家から評価されれば信頼関係が強まり、より企業活動がしやすくなるでしょう。
ガバナンスと関係の深い用語
コンプライアンス以外にも、ガバナンスには関係の深い用語があります。
コーポレートガバナンス
コーポレートガバナンスとは、企業統治のことを指します。統治とは、権力を使って国や人民を支配するという意味を持ちますが、現代風に翻訳すると、企業と関係者との間の秩序が保たれている状態といえるでしょう。つまり、出資している株主に最大限の利益を還元し、顧客には価値相応またはそれ以上のサービスを提供するように努めることが企業の本質であり、健全な企業経営ができているかを監視するシステムがコーポレートガバナンスとなります。
ガバナンスコード
東京証券取引所では、コーポレートガバナンスの目的を果たすための基本原則が定められています。2021年6月版の公式資料によると、ガバナンスコードを実践することによって、企業の持続的成長と企業価値の向上が期待でき、社会の発展にもつながると考えられています。以下は、ガバナンスコードの基本原則となります。
第1章 株主の権利・平等性の確保
第2章 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
第3章 適切な情報開示と透明性の確保
第4章 取締役会等の責務
第5章 株主との対話引用元:日本取引所グループホームページ 「コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」から引用
リスクマネジメント
企業の存続や経営活動において、小さなリスクが大きな損失につながることがあります。先にも話したように、情報のスピードが加速している現代社会では、昨日までは常識だったことが非常識に変わる可能性もあり得ます。そこで現時点で想定できるリスクを洗い出し、評価・対策・検証・改善などのプロセスを踏んでいきます。特に個人情報保護ではPマーク(プライバシーマーク)、個人情報+情報セキュリティに関してはISMS(ISO国際規格)などの認証取得を行うことで、社会的な評価にもつながります。
内部監査・内部統制
灯台下暗しということわざがあるように、関わりの深い仕事に長く携わっていると盲点が生まれやすくなります。そこで、企業内で独立した部署を設けることで、組織が適切に運営されているかを検査することを内部監査・内部統制といいます。監査の具体的な内容を定めている法令等はなく、あくまでも基準や定義に従い、任意で実施します。
ガバメント
英語の「government(ガバメント)」と「governance(ガバナンス)」はつづりも似ているため、間違いやすいのではないでしょうか。「governance(ガバナンス)」は「govern」が変化した単語ともいわれています。単語の意味はどちらも「支配、統治」ですが、ガバメントは国や地方自治体による統治を指し、ガバナンスはそれ以外による統治を表しています。
ガバナンスの使い方
ガバナンスには、主に以下のような使い方があります。
ガバナンスが効いている
ガバナンスが効いている状態とは、企業の管理体制が徹底され、統制が取れていることを指します。
ガバナンスが効いていない
一方でガバナンスが効いていない状態とは、企業の経営方針が曖昧だったり、組織の管理体制に問題があったりすることを意味します。
ガバナンスを強化する
ガバナンスが効いていないと判断した場合、違反や事故を未然に防ぐためにも業務フローの見直しやルールの徹底、管理体制の改善に取り組む必要があります。また、ガバナンスが効いている状態でも、ガバナンスを強化していくことで企業内の不正や情報漏洩等のリスクを減らすことができます。
ガバナンスが機能するメリット
ここまでガバナンスの内容について説明してきましたが、ガバナンスが機能することによってどんなメリットがあるのでしょうか。
業界としての優位性が高まる
コーポレートガバナンスを強化し、機能している状態をキープできれば、ルールを守って健全な企業活動ができているとみなされます。つまり、投資家が安心して資金を投下でき、証券取引所での需要が高まれば株価も上がっていきます。資金が集まることにより人材や設備に投資できるようになり、企業の成長も加速していくでしょう。
企業の不祥事を未然に防げる
企業が成長し、社会的な優位性を作ったとしても、不祥事が起こってしまえば水の泡です。企業の不祥事は、株主はもちろん、顧客や取引先、従業員やその家族に至るまで不幸をもたらします。とはいえ、企業内で不正が許される環境では、改善の見込みはありません。そこでガバナンスを強化することで、不正やハラスメントを許さない環境を構築できます。
グローバル化に対して柔軟に対応できる
国内のみの競争では、業界同士の潰し合いやルール違反による一人勝ちのような考え方をする企業も少なからずいるかもしれません。しかし、グローバル化が進んでいる現代社会では、足の引っ張り合いをしている場合ではないのです。世界規模で見た市場競争を勝ち上がっていくためには、企業それぞれの立場と役割を理解し、日本企業としてのコーポレートガバナンスを強化していく必要があります。企業統治(ガバナンス)が効いていけば、国としての統治(ガバメント)にもつながり、国レベルでの信用力と国際競争力がアップするでしょう。
ガバナンスを重視するデメリット
ここまでガバナンスのメリットを書きましたが、ルール遵守や管理体制の強化に重きを置かれている分、デメリットにもなります。あくまでも、コンプライアンス遵守のためにあるものという前提を忘れずに取り組むことが重要です。
意思決定に時間がかかってしまう
コンプライアンス遵守やコーポレートガバナンスを最優先にすると、できるだけリスクのある行動は控えようという意識になりがちです。法的にリスクのある活動は慎むべきですが、企業の成長につながるチャレンジに関してまでストップをかけてしまうのはマイナスになります。企業活動に影響が出てしまうと、投資家や顧客との関係性も悪くなり、資金減や利益が目標に届かない結果、不正に手を染めやすくなってしまいます。
人材の配置やコストの問題が発生する
コーポレートガバナンスを導入する際に、従業員から反発を受ける可能性があります。理由として、業務フローが複雑になること、管理する書類が増える、ルールが多すぎて現場が混乱するなどの問題が生じるからです。また、社外から取締役や監視役を招集したり、新たに部署を設ける必要が出てきたりします。
会社規模に対して業務負担が大きくなる
コーポレートガバナンスは、ルールのマニュアル化や業務フローのシステム化が肝となるため、会社規模によっては経営の足かせになる可能性があります。ただし、企業の不祥事や不正に対する世間の目は年々厳しくなってきているため、企業倫理や社会規範に反しない経営管理は意識していく必要があります。
ガバナンスを強化する際の具体的なポイント
ガバナンス強化には、社内規程等のルールや業務フローの見直しが不可欠です。しかし、社内だけに目を向けると、コンプライアンス違反の防止にはつながったとしても、投資家目線からはメリットが減ってしまいます。そこで重要なのが、企業と投資家とのメリットについてすり合わせを行うことです。経営者と株主が同じ目的地に進んでいくためには、以下の具体的なポイントが参考になります。
役割の明確化
先にも説明した「ガラス張りの経営」で有名な松下幸之助氏が創業した現パナソニックでは、役割を明確にした透明性の高い経営体制が敷かれています。事業と地域の軸で分担されたカンパニー制を導入し、それぞれが役割を理解し、責任ある業務を行うことによってガバナンス強化を実現しています。
株主からの監視体制を確立する
ガバナンス強化には第三者の目が重要になります。そのためには、企業の成長に大きく関与する株主からのニュートラルな意見が必要不可欠です。株主からの監視体制には大きく分けて2種類の統治方法があります。
組織型
株主が経営者を監視する体制を作ることで、株主のリスクを減らすことができます。具体的には、株主総会で、株主の不利益につながる経営者を解任できるというものです。または、経営者が会社に損害を与えた場合は、株主が会社に代わって損害賠償請求ができるというものもあります。
市場型
株主が株の売買を行うことにより、株価の下落や低迷による心理的不安を経営者に与えることができます。業績不振は経営者の解任にもつながるため、組織運営を見直すきっかけを与えてくれるでしょう。
まとめ
コーポレートガバナンスの強化は、リスクの防止だけでなく、社会的信用や企業経営の健全化、投資家のメリットにもつながります。システム構築や組織内への浸透には時間がかかりますが、コンプライアンス遵守と利益追求とのバランスを見て実施していきましょう。