SNSアプリ「ビーリアル(BeReal)」が原因の情報漏洩が、2025年秋から2026年春にかけて相次ぎました。病院の受付モニター、小学校の校務システムの画面、銀行の執務室。いずれも、撮影を促す通知に反応した職員が、背景に何が映っているかを確かめる前に投稿しています。
危険性の正体は、アプリの出来の悪さではありません。通知から2分で撮るという使い方と、自分が投稿するまで友達の投稿を見られない設計が重なり、確認の手間を省かせる点にあります。ここでは何がどう危ないのかを3つに整理し、公表された3件の事例、企業が問われる責任、セキュリティ意識向上 研修を含む対策の順に見ていきます。
ビーリアルの危険性は「写り込み」「位置情報」「転載」の3つ
1. 前後のカメラが背景ごと写す
ビーリアルは前面と背面のカメラで同時に撮るため、自分の顔と目の前の景色が必ず一緒に写ります。職場なら、ホワイトボードの顧客名、受付モニターの患者一覧、机に広げた書類が背景に入ります。後述する3件の事例はすべてこの型でした。
2. 位置情報を付けたまま投稿できる
投稿する前に、位置情報を表示するかどうかを選べます。表示したまま職場から投稿すれば、勤務先の所在地が投稿に添えて出ます。支店や工場の場所、常駐先や出張先の取引先まで読み取られる場合があります。3つの危険性のうち、設定だけで止められるのはここです。
3. スクリーンショットと「友達の友達」で転載される
公開範囲を友達に限っても、受け取った側がスクリーンショットを撮って別のSNSに載せれば、そこから先は止められません。投稿時には「友達の友達」のフィードへ出す選択もあり、面識のない相手にも届きます。西日本シティ銀行の事例では、投稿がX(旧Twitter)上で広がりました。
残る2つは設定では防げず、撮る直前に手が止まるかどうかにかかっています。フィッシング訓練の効果測定と同じ考え方で、研修の実施回数より従業員の行動の変化を指標に置く必要があります。
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BeReal(ビーリアル)とは?情報漏洩が相次ぐSNSの仕組み
BeRealの基本機能と「2分以内」という心理的罠
ビーリアルはフランス発のSNSアプリで、前面と背面のカメラを同時に使い、飾らない日常を共有します。1日1回、同じ時間帯に通知が届き、そこから2分のあいだに撮って出すのが基本の使い方です。
2分を過ぎても投稿はできますが、遅れて出したことが友達に表示されます。そして自分が投稿するまでは、友達の投稿も「友達の友達」のフィードも見られません(BeReal ヘルプセンター)。この2つが重なるため、通知が届いた場所がどこであれ、まず撮ってしまう動機が働きます。職場で通知を受けた職員は、背景に何が写るかをほとんど確かめないまま投稿することになります。
- ホワイトボードに書かれた顧客名・売上目標
- PCモニターに表示された業務データ
- 机の上に広がった書類や資料
- 社内会議室の風景や同僚の顔
BeRealが「友人限定」という油断を生む理由
BeRealには「友人のみ公開」という設定があり、多くのユーザーが「友達にしか見えないから大丈夫」と認識しています。しかし、この油断が重大なリスクを生みます。
- スクリーンショット問題:友人がスクリーンショットを撮れば、意図せず拡散する
- 公開範囲の選択:投稿時に「友達の友達」のフィードへ出す選択があり、面識のない相手にも届く
- 友人経由の二次拡散:SNSの連鎖的な拡散力を軽視している
発生した主な情報漏洩事件(実例)
西日本シティ銀行の顧客情報拡散事件(2026年4月)
最も注目を集めた事例です。西日本シティ銀行は2026年4月30日、職員が山口県の支店内を撮影してビーリアルに投稿した画像と動画がインターネット上で拡散したとして、自社サイトで謝罪を公表しました。報道によれば、ホワイトボードに書かれた顧客7名の氏名のほか、業績目標や貸出金などの数値目標、デスクの書類、PCの画面が写り込んでいました。
同行は、情報が流出した顧客に個別に謝罪して説明するとしています。執務室には他の職員もいたとされ、撮影を誰も止められなかった点も問われました。金融機関は顧客情報の管理義務が重く、一度の投稿で監督官庁への報告と顧客対応が同時に発生します。
教育現場での事例(仙台市)
仙台市教育委員会は2026年4月21日、太白区の市立小学校に勤める20代の女性教諭が、職員間で資料を共有するシステムの画面を撮影してビーリアルに投稿したと公表しました。画像には勤務先の学校名と、同僚の男性教諭1名の氏名が写っていました。教諭は撮影を促す通知が出たので深く考えずに投稿したと説明しています。画像は削除されたものの、SNS上では拡散しました。市教育委員会は保護者への説明と謝罪を行い、各校へ服務規律の徹底を指示しています。
医療機関での事例(岩見沢市立総合病院)
2025年10月、岩見沢市立総合病院で、医療事務を委託された業者の女性職員が受付の画面を私物のスマートフォンで撮影し、ビーリアルに投稿しました。画面にはその日に受診した患者20人分の氏名・患者番号・性別・年齢・主治医名が表示されていたと報じられています。投稿は約2時間後に削除され、閲覧した3人からの二次流出は確認されていません。病院は職員を即日業務から外して対象の患者に謝罪し、再発防止として業務中の私物スマートフォンの持ち込みを禁じました。委託先の職員による漏洩は、委託した側の監督責任にも跳ね返ります。
なぜBeRealで情報漏洩が「相次ぐ」のか:3つの構造的原因
1. 2分の制限と「投稿しないと見られない」仕組み
2分という撮影の目安と、投稿しなければ友達の投稿を見られない仕組みが重なると、確認行動が省かれます。セキュリティの観点では、急かされた状況がもっとも判断力の落ちる場面です。フィッシングメールが「至急」「今すぐ」を多用して考える時間を奪うのと、働く仕組みは同じです。
2. Z世代の「SNS生活圏」との境界線の曖昧さ
BeRealをはじめとするSNSは、Z世代にとって日常生活の一部です。プライベートと仕事の境界が曖昧なため、職場でも自然に使用してしまいます。「職場での撮影は機密情報を含む可能性がある」という意識が十分に育っていないことが背景にあります。
3. セキュリティ教育とSNS利用文化のギャップ
多くの企業のセキュリティ教育は「フィッシングメールへの対応」「パスワード管理」が中心であり、SNSによる不意の情報漏洩を明示的に扱っているケースは少数です。新しいSNSトレンドへの対応が、教育コンテンツの更新に追いついていない状況です。
企業が受けるBeReal情報漏洩のリスク
法的リスク
| 関連する決まり | 企業に生じること |
|---|---|
| 個人情報保護法 第26条 | 要配慮個人情報や不正の目的によるおそれなど、報告対象の4類型に当たると個人情報保護委員会への速報と確報が必要になる |
| 個人情報保護法 第25条 | 業務を委託していた場合、委託先に対する必要かつ適切な監督を果たしていたかを問われる |
| 金融分野のガイドライン | 金融機関は、個人情報保護委員会と金融庁のガイドラインおよび実務指針に沿った安全管理措置を求められる |
| 刑法 第134条 | 医師・薬剤師・助産師などが業務上知った秘密を漏らした場合の罰則。医療事務の委託職員は条文の対象ではなく、上記の個人情報保護法の問題として扱われる |
| 就業規則 | 機密保持義務の違反として懲戒の対象になる |
風評・ブランドリスク
SNSでの拡散は速く、企業の信頼に直接響きます。西日本シティ銀行の事例では、投稿から短期間で全国の報道に広がり、同行は謝罪の公表と顧客への個別説明に追われました。投稿した本人が削除しても、転載された画像は回収できません。
ビジネスリスク
- 取引先・顧客の信頼喪失
- 競合他社へのビジネス情報の流出
- 採用ブランドへの悪影響
企業が取るべき具体的な対策
対策1:SNSポリシーの明文化とBeReal対応の明記
既存の「SNS利用規定」にBeRealのような背景映り込み型リスクを明示的に追記することが重要です。「投稿前に背景を必ず確認する」という行動指針を盛り込みます。
ポリシーに含めるべき項目:
- 職場・業務関連場所でのビーリアル使用禁止(または条件付き許可)
- 機密情報・個人情報が映り込まないことの確認義務
- 位置情報を付けた投稿と「友達の友達」への公開の扱い
- 投稿前の上長・同僚への確認プロセス
- 違反時の懲戒規定
対策2:Z世代向けのセキュリティ意識向上研修
従来型の座学研修ではなく、実際のBeReal事例を使ったシミュレーション型研修が効果的です。「自分ごと」として理解させることで、行動変容につながります。
研修で取り上げるべきポイント:
- BeReal・TikTok・Instagram Reelsなど背景が映り込むSNSの共通リスク
- 「友人限定」設定の限界とスクリーンショット問題
- 情報漏洩した場合の法的責任と企業への影響
対策3:技術的統制(MDMとの連携)
スマートフォンのMDM(モバイルデバイス管理)を活用し、業務デバイスでのBeRealアプリインストールを制限する方法があります。個人デバイスへの対応は難しいですが、会社デバイスからの情報漏洩を防ぐ有効な手段です。
対策4:定期的なSNSリスク訓練の実施
フィッシング訓練と同様に、SNS投稿リスクをテーマにした模擬訓練を実施することが推奨されます。「もし職場でBeRealを使ってしまったら何が映り込んでいたか」を体験させる訓練が、最も行動変容に効果的です。
セキュリティ意識向上研修でBeRealリスクに対応する
BeRealによる情報漏洩は、技術的な対策だけでは防ぎきれません。最終的には従業員一人ひとりのセキュリティ意識が防衛線になります。
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まとめ:BeReal情報漏洩への組織的アプローチ
BeRealが引き起こす情報漏洩は、「不注意な個人」の問題ではなく、UI設計・世代特性・教育ギャップが組み合わさった構造的なリスクです。企業として取り組むべきポイントをまとめます。
- 認識:2分での撮影と「投稿しないと見られない」仕組みが確認を省かせると理解する
- ポリシー:SNSポリシーにBeReal対応を明記し、全従業員に周知する
- 教育:Z世代向けに実例を使ったSNSリスク研修を実施する
- 技術対策:MDMでの業務デバイスのアプリ制限を検討する
- 継続的訓練:定期的なセキュリティ意識向上プログラムを維持する
参考資料・関連機関
- BeReal ヘルプセンター:Time to BeReal.(撮影の仕組みと公開範囲)
- 個人情報保護委員会:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)
- 個人情報保護委員会・金融庁:金融分野における個人情報保護に関するガイドライン
- 総務省:国民のためのサイバーセキュリティサイト
- ITmedia NEWS:「BeReal」による不適切投稿、教育現場でも