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クラウドをビジネスで活用する方法としてiPaaSが注目されています。とはいえ最近「〇〇 as a Service」というIT用語がいろいろ登場しており、明確に区別できないという方もいるでしょう。
なおiPaaSとは、主にインターネット上に構築された複数のクラウドシステム間でデータを共有する仕組みで、企業のデータセンターなどで使われるオンプレミスシステムとも連携できす仕組みです。今回はiPaaSの特徴をよく比較されるクラウドサービスと比較して紹介します。
iPaaSとは
iPaaSとは「Integration Platform as a Service」の略で、アメリカの調査会社であるガートナーの定義によると、「オンプレミスとクラウドベースのプロセス、サービス、アプリケーション、およびデータの任意の組み合わせを個別または複数の組織に接続する統合フローの開発、実行、およびガバナンスを可能にするクラウドサービスのスイート」です。
多くの企業では以前から使用しているオンプレミスの情報システムと、新たに利用を始めたクラウドサービスの両方をビジネスに活用しています。しかし、クラウドサービスはそれぞれにデータを登録しなければなりません。そして活用したいデータの多くはオンプレミスの情報システムに格納されています。そのためそれぞれ別の仕組みとして利用しなければなりません。iPaaSはそられを連携して使える仕組みです。
iPaaSの仕組みとは
iPaaSの「iP」とは「Integration Platform」で、統合プラットフォームという意味です。この言葉のとおりiPaaSとは複数のシステム間でデータを統合して業務を自動化するサービスです。そしてiPaaSが統合するサービスはクラウドサービスだけではなく、企業のデータセンターなどで稼働しているオンプレミスのシステムも含みます。
ただしバラバラに稼働しているサービスは、それぞれの別のフォーマットのデータをベースに運用されています。そこでiPaaSでは標準となる通信フォーマットでデータを連携する仮想的なプラットフォームを用意することで、あたかもデータ通信を制御するハブのように動作する仕組みです。
そのため利用したい各サービスには、iPaaSと通信するためのモジュールを組み込まなければなりません。そして、そのモジュールを介してiPaaSのアプリケーションが稼働しているサーバーを通信することで統合プラットフォームとして機能します。
iPaaSではコーディングが必要
先ほどiPaaSの仕組みとは複数のシステムのデータを連携させる統合したプラットフォームであり、そのためにiPaaSのサーバーと通信するためのモジュールを組み込む必要があると紹介しました。つまりiPaaSを実現するには、クラウドサービスや既存のオンプレミスシステムなどにモジュールを組み込むためのコーディング作業が必要です。
そのため企業のデータセンターなどで稼働している旧式なシステムと連携するには、そのシステムに合わせた工夫が必要です。しかしiPaaSでデータを連携する仕組みを作ってしまえば、機械学習のような人工知能(AI)など最新のIT技術を利用してDX(デジタルトランスフォーメーション)にも活用できます。
iPaaSを実現する際の注意点
iPaaSを実現する際に注意しなければならないのがセキュリティ対策です。iPaaSを利用するとクラウド上のサービスとオンプレミスのシステムとが直接接続されてしまいます。そのため接続経路が攻撃者の侵入経路として悪用されないように、適切に対策されなければなりません。
例えばクラウドのサービスを安全に使うための認証の仕組みとしてシングルサインオンを採用すれば、利用者は1回の認証でサービスを利用でき、クラウドのサービスやオンプレミスのシステムではネットワークを介して安全に認証することが可能です。
ほかの「as a Service」との比較
iPaaSに似たIT用語としてSaaS(Software as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)などもよく使われます。これらはいずれも「as a Service」が付く言葉を略した新しいIT用語です。簡単に紹介すると次のような意味で使われます。
- SaaS:
パッケージ製品のソフトウェアをインターネット経由でサービスとして提供・利用する形態 - PaaS:
OSをインストール済のサーバーなどのプラットフォームをインターネット経由でサービスとして提供・利用する形態 - IaaS:
情報システムの稼動に必要インフラをインターネット経由でサービスとして提供・利用する形態
次からiPaaSとほかの似たようなIT用語との比較を紹介します。
SaaSとは
SaaSとは「Software as a Service」の略で、パソコンにインストールするようなパッケージ製品のソフトウェアをWebブラウザなどで使えるインターネット経由のサービスとして提供・利用する形態です。
SaaSの例としてよく挙げられるのがMicrosoft社のOffice365です。なおOffice365では、パソコン用のビジネスアプリケーションとして定番のWordやExcelといったOffice製品をWebブラウザからでも利用できます。そして同じようにパソコンにインストールして使っていたアプリケーションを、Webブラウザからでも利用できるサービスが幾つもあります。
iPaaSで実現できる統合プラットフォームでは、従来バラバラに利用していたアプリケーションのデータをクラウド上のサービスで共有できる仕組みです。そのためiPaaSをプラットフォームとして利用すれば、SaaSはより使い易くなりますが、SaaSとiPaaSとは全くの仕組みです。
PaaSとは
PaaSとは「Platform as a Service」の略で、データセンターにサーバー専用機を購入してサーバーに仕立てるのではなく、クラウド上のサービスを利用してサーバーのように利用することを指す言葉です。
昔は1台のサーバーに1つのOSをインストールし、そこで動作する1つのシステムを実現するのが一般的でした。しかし今は仮想化により1台のサーバーで複数のOSを稼働させたり、1つのOSで複数のシステムを稼働させることが可能です。
そしてクラウド上のサーバーを活用すれば仮想化されたサーバーを利用することで、アプリケーションの負荷に応じてサーバーを増やしたり、より高性能なサーバーへの切り替えなどにも対応できます。
なおiPaaSにも「Platform」が含まれていますが、iPaaSは異なるシステム間でデータを共有する仕組みを提供するサービスであり、特定のハードウェアの置き換えではありません。そのため似ているものの、別の仕組みと考えてください。
IssSとは
IssSとは「Infrastructure as a Service」の略で、クラウド上でサービスとして提供されているCPU、メモリ、ストレージなどのインフラ(Infrastructure)を利用する仕組みです。
昔は各企業にデータセンターがあり、それを中心にサーバーやネットワークなどのインフラを構築してシステムを立ち上げるのが一般的でした。しかし今はクラウド上のサービスを利用することで、データセンターと同じインフラを用意できます。
なおiPaaSの「i」とは「Integration」の略なのに対し、IaaSの「I」は「Infrastructure」で全く別の意味です。そのためiPaaSとIaaSは似ていますが、全く別の機能です。
iPaaSのメリット
先ほど紹介したようにiPaaSとは、統合プラットフォームをサービスとして利用する仕組みで、業務で利用するシステム間のデータを共通にすることで通信を制御するハブとして機能します。次からiPaaSのシステム間のデータ通信を共通にする機能を活用したメリットについて紹介します。
システム間の連携の円滑化
iPaaSのメリットとしてまず挙げられるのはシステム間連携の円滑化です。これまでオンプレミスでシステム間の連携を円滑化する仕組みはありましたが、これからはクラウドサービスも多く利用されています。そのためiPaaSのクラウドサービスも含めて連携できる点に多くの企業が注目しています。
なおオンプレミス環境で複数のシステムを連結してビジネスに活用する仕組みとしてよく使われるのがSAPです。SAPは企業の人事システムや経理システム、購買システムなど個別に運用されていたシステムを統合し、企業のワークフローの迅速化、運用の効率化、生産性の向上などに実現しました。
iPaaSを使うことでSAPのようなシステムの統合をクラウドとオンプレミスの両方のシステムを対象に実現することが可能です。
データの共通化
iPaaSのメリットのもう1つはデータの共通化です。iPaaS用のモジュールさえ組み込めればこれまで利用できなかったサービスのデータもクラウド上のサービスで利用できます。
例えば多くの企業で、オンプレミスのアプリケーションで管理した過去のデータがあるでしょう。もし業務に使う仕組みをクラウドに移行したら、そのデータをiPaaSのデータ形式に変換することで、iPaaSに接続したクラウドも利用可能です。
さらにこれまで既存の情報システムで活用されていなかったデータを、部門で個別に管理するケースがあったでしょう。そのようなデータもiPaaSの共通のデータ形式に変換することで、情報システムに取り込むことも可能です。そのため業務の見直しやDX(デジタルトランスフォーメーション)などにも活用できます。
iPaaS導入の課題
iPaaSは元々アメリカで普及したサービスで、アメリカでは既に多くの企業が導入しています。そのため海外製のiPaaSサービスは幾つもありますが、残念ながら日本ではまだ普及していないサービスです。
次からiPaaSを日本で導入する際の課題について解説します。
レガシーなシステムでは導入できない
iPaaSとは複数のシステムを連携して業務を自動化する仕組みであり、連携で共通のデータ形式を使うためにモジュールの組み込みが必要です。そのためiPaaS製品に対応したモジュールを組み込めないシステムには導入できません。
既にiPaaSを導入しているアメリカの企業の多くは、自社のシステムを自社のエンジニアが改修しています。そのためほとんどのケースでiPaaSのモジュールを自社既存のシステムに組み込むことが可能です。
しかし日本の企業の多くはSIerにシステム構築や改修を依頼しており、自社のエンジニアが改修することはありません。さらにレガシーなシステムではSIerでもiPaaSのモジュールの組み込みができないケースもあります。そのため日本の企業で使われているレガシーなシステムではiPaaSのモジュールを組み込めめないため、iPaaSへの統合はできません。
どこに依頼すればいいか解らない
iPaaSとは利用しているサービスにモジュールを組み込んでデータを共有化できる仕組みです。つまり利用しているサービスにiPaas用のモジュールを組み込まなければなりません。これから新規に利用するサービスであれば対応してもらえるでしょう。既に多くの企業がiPaaSを利用しているアメリカのサービスと同じであれば問題ありません。
しかし、自社で利用しているサービスをIT企業のサポートに依存している場合、対応してもらえるとは限りません。特にオンプレミスで運用しているシステムは、サポートを依頼しているIT企業の協力が必要です。サポートを依頼しているIT企業が対応できない、といったケースもあります。
RPAの置き換えにはならない
日本では改造できないくらい古いシステムがまだ多数稼動しており、そのシステムを利用する仕組みの自動化にRPA(Robotic Process Automation)の導入が広がっています。しかし、RPAでは操作の自動化は可能ですが、システムの連携を実現できる訳ではありません。
その点iPaaSとは、データを共通化して利用している複数のシステム間で連携を実現できる仕組みです。そのためRPAよりも効率よく既存のシステムと新しいシステムとを連携したDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現できます。ただし既存のシステムでiPaaSのモジュールが使えなければなりません。
RPAの次のステップとしてiPaaSに取り組み企業もあるそうです。RPAは既存システムをそのまま使えましたが、iPaaSではそのままでは利用できない点に注意してください。
iPaaSについてのまとめ
これまで紹介したようにiPaaSとは「Integration Platform as a Service」の略で、サービスとして利用できる統合プラットフォームです。実際には利用しているサービスにiPaaS用のモジュールを組み込み、データを共通化することでシステム間の連携を実現できます。
なおiPaaSに似た言葉としてSaaS、PaaS、IaaSなどの言葉がありますが、それらとは全く別の機能です。そしてアメリカでは既に多くの企業が導入しており、クラウドサービスとオンプレミスのシステムとの連携に活用しています。
日本の企業では導入の課題もありますが、複数のクラウドを業務で活用するために有効なサービスであり、導入を検討している企業がたくさんあるサービスです。