
好きな所から読む
企業の括りの一つとしてあげられる中小企業。日本ではその99%が中小企業であると言われています。今回はそんな中小企業と大企業の違いを多面的に解説しました。是非ご覧ください。
日本の中小企業
会社の大まかな規模を話すときに、「大企業」、「中小企業」という表現を使います。これは大抵の場合、何となくのイメージで大企業、中小企業という言葉が使われます。しかし、中小企業と言う言葉には定義があることをご存知でしょうか? また、大企業と言う言葉には定義が存在しません。実は私たちがよく使うこの2つの言葉はそれほど意味を意識せずに使われているのです。今回はまだまだ理解されていない日本の中小企業について触れていきます。
みなさんは日本の会社の中で中小企業の割合はどの程度だとお考えでしょうか?独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)の調査(平成28年)によれば何と日本の全企業の内99.7%の企業が中小企業に該当します。日本全国には 3,589,333社もの企業があり、その内、3,578,176社の中小企業が存在します。中小企業の従業員の数は32,201,032人に登り、これは全体の68.8%に当たります。
このように中小企業は日本の企業とその従業員は日本の経済・雇用を支えている存在です。
中小企業の定義
では、ここで言う中小企業とは一体何なのでしょうか?中小企業と言うのは厳密な定義が存在します。これは中小企業基本法と言う法律で定められています。この定義は以下の業態によって異なります。業態により資本金の出資総額と従業員数に基づき定義されます。大別すると4つの業態があり、それぞれに資本金または出資総額と従業員数に基づき決められます。詳しく解説していきます。
中小企業の業態
それぞれの業態での中小企業の定義は以下の通りとなります。
サービス
資本金の額or 出資総額が5,000万円以下、または常時働く従業員数100人以下の会社・個人
小売
資本金の額or 出資総額が5,000万円以下、または常時働く従業員数50人以下の会社・個人
卸売
資本金の額or 出資総額が1億円以下、または常時働く従業員数100人以下の会社・個人
製造業・建設業・運輸業・その他の業種
資本金の額or 出資総額が3億円以下、または常時働く従業員数300人以下の会社・個人
このように中小企業には定義があります。ただ、注意点があります。これはあくまで「原則」に過ぎません。実際の法律や制度により中小企業の範囲は異なります。例えば以下のようなケースです。
- 法人税の対象:資本金が1億円以下の企業
- 補助金・助成金の対象:大企業と密接な関係を持つ会社は「みなし大企業」という扱いを受けることがあり、対象から外れます。
- 中小企業関連立法の定義:
- 一部のゴム製品製造業:資本金3億円以下 または従業員900人以下
- ソフトウェア・情報処理サービス業:資本金3億円以下 または従業員300人以下
- 旅館業:資本金5,000万円以下または従業員200人以下
中小企業と大企業との違い
小企業には明確な定義がある一方で、大企業と呼ばれる企業には明確な定義は存在しません。上記に述べたような法律・制度上で中小企業に該当しない会社は大企業とみなされます。では、大企業との違いとは何でしょうか? 大きく分けると下記の5つの要素が考えられます。一つずつ見ていきます。
- 収入
- 福利厚生
- 仕事の裁量
- 経営の安定性
- 出世競争の激しさ
収入
真っ先に想定されるのが収入面の違いです。大企業は稼いでる収益が大きいからこそ大企業の地位があります。そのため社員に払える給与額も良い傾向が高いです。また、大企業は額面だけでなく、給与額の査定や昇給等の基準も明確に定められています。一方で中小企業は額面自体も少ない傾向があり、また査定基準も大企業ほど明確に設定されていない傾向があります。
福利厚生
これもすぐに想像できると思います。多くの社員を抱える大企業の場合、彼らの生活を取り巻く環境を手厚くサポートしてくれます。家賃補助、通勤手当、家族手当、健康診断、ウェブ企業と連携したパッケージサービスの導入などがあります。中小企業ではここまで充実した福利厚生は提供できません。そのため、たとえ給与額が大企業と同等でも福利厚生面で見劣りするという可能性があります。また働き方改革の進行度やテレワークの導入率でも大企業のほうが進んでいるといえるでしょう。
仕事の裁量
大企業はその事業規模の大きさ故、関わる社員の数も多くなります。そのため個々人の役割は細分化され、限定的になります。つまり任される最良と言う意味では非常に狭い範囲での仕事になりがちです。大きなプロジェクトに関わってはいるものの実際に自分は何も決断できていない。といったことは大手の企業ではよく起こります。中小企業では少数精鋭で動く傾向があるため、自分に任される裁量が大きくその点においてやりがいを感じる方も多いと思います。
経営の安定性
企業規模の大きさや内部留保額の多さにおいて、企業の経営は概して安定しているといえます。今回のコロナ流行によっても業績悪化の影響こそあれ、これで社員への給料をストップさせた大企業はごくわずかです。不況時でも社員の雇用を維持し経営を維持できるのは大企業の大きな強みです。今回のような不況時になると中小企業の経営というのは非常に危うくなりがちです。数ヶ月商売が止まることで、資金が回らなくなり、経営に行き詰まる企業も多くなりがちです。
出世競争の激しさ
抱える従業員が多い大企業は競争も激しいと言えます。出世をめぐる争いも熾烈で、これによる心労も激しい傾向があります。一方で、中小企業はそこまで激しい競争がないため出世できる可能性が高くなります。会社の中でより高い地位を目指す人にとっては中小企業の方が向いているかもしれません。しかし、別の見方をすれば、経営が安定している待遇の良い大企業であれば大して出世しなくてもかなりの待遇を得られる可能性があります。
中小企業のメリット
こうして見ると待遇面で中小企業が大企業に勝るところはあまり無いように見受けらられます。では、中小企業のメリットとは何でしょうか?仕事面で言えば、自分に与えられる裁量の大きさによりやりがいを持って仕事に打ち込める点があるでしょう。また、新しい業界へ転職する場合、その業界での経験がなければ、その競争の高さからいきなり大手に入る事は現実的にはかなりハードルが高くなります。一方で中小企業であれば、大手企業ほど高い競争にさらされないため転職しやすいと言うメリットもあります。働き方の点で言えば、大企業になるとグローバルに拠点を構える会社が多いです。会社から行きたく無い赴任地への異動命令にもNoとは言えません。中小企業であればそれほど多くの拠点を構えていないため、転勤の可能性が低くなります。中小企業にはこういったメリットがあります。しかし、中小企業の一番のメリットは税制面での優遇措置です。中小企業は大企業では受けられない税制の優遇措置が受けられます。これは法人税の優遇措置であったり、損失の繰越等措置などです。以下で詳しく解説致します。
日本の法人税優遇
現在の一般的な法人税と言うのは23.4%です。これは2011年の30%から徐々に下がっています。しかしながら、中小企業に課される法人税は現行19%と大企業に比べてかなり割安となっています。ここはもう少し詳しい説明が必要ですので法人税の仕組みを見ていきましょう。
冒頭でも少し触れましたが、法人税法における中小企業の定義は資本金1億円以下の会社です。この法の中では「中小法人」と呼ばれます。中小法人に課される法人税率は下記の通りとなります。ポイントは法人所得により課される税率が変わります。実行税率とは法人税以外(地方法人税、法人事業税、法人住民税等)の税金も含めたトータルの税率と言う意味です。このように税制面では中小企業の優遇措置があります。さらに減税率措置としてこの19%に該当する部分の法人税率は2021年3月中までの事業年度内であれば、15%の特例措置が取られています。下記に表でまとめていますので参照ください。
また、もう一つのメリットとして欠損金を繰越して、翌年の利益との相殺が認められている点があります。赤字決算の翌年から10年間、欠損金を課税所得から差し引けます。具体例で見ていきましょう。
- 2018年度:マイナス 500万円
- 2019年度:プラス 300万円
上記のような課税所得の場合、大企業であれば2018年度は法人税0円になりますが、2019年度は利益を出しているので法人税を払います。しかし、中小企業であれば昨年度のマイナス500万円と相殺でき、法人税が発生しません。そして、2020年度も200万円までの課税所得であれば、法人税は発生しません。青色申告書を提出している企業が対象となりますが、このような仕組みが赤字決算後から10年間にわたって可能となります。これを欠損金の繰越控除と呼びます。
また上記と関連しますが欠損金の繰戻還付と言う制度もあります。繰戻還付は今年度の赤字を過去にさかのぼって過去の利益と相殺すると言う考え方です。これにより、多めに払った税金が返ってきます。実績の効果は繰越控除と同じですが、手持ちの現金を増やせるため、資金繰りが有利になります。キャッシュフローの観点からはこちらの方が好まれます。損金の繰越控除と繰戻還付はどちらか一方しか選択できません。
中小企業のデメリット
では逆に中小企業のデメリットとは何でしょうか? 中小企業のデメリットとは下記の要因が考えられます。1つずつ解説していきます。
- 社会的信用の低さ
- 人材確保が困難
- 事業規模
- 財政基盤
社会的信用の低さ
たとえ同じ商材・サービスを扱っていても、大企業と競合した場合、知名度や社会的な信用度で劣る中小企業は取引先として敬遠される可能性があります。または、大企業ほど有利な取引条件を引き出せない場合があります。また資金調達の観点からも信用度の低さは不利に働きます。銀行からお金を調達する時に大企業ほど有利な条件で調査することは困難です。このような制限がビジネスの規模にも影響与えてきます。
人材確保が困難
社会的な知名度で劣る中小企業は人材確保の観点でも不利な立場にあります。既に名の知れた大企業は宣伝しなくても人が集まってくるのに対し、中小企業の場合はそもそも事業内容を知られていない等初めから不利な立場にあります。また大手企業は人材育成のための研修プログラム等を整備しています。全ての社員に一定水準の社員教育を行える一方で、一般的に中小企業は大手ほど充実した研修プログラムを持っていません。人材の教育はOJTで行うと言うのが一般的です。
事業規模
事業規模の大きさもデメリットといいます。グローバル企業のように大規模で事業展開している会社であれば行き先に対しスケールメリットを聞かせられるため有利な条件を引き出せます。そして、社員に対しても様々な選択肢(国内転勤、海外転勤等)を提供でき、活躍の場とモチベーションを提供できます。そして活躍した社員には報酬で報いることができ、プラスのサイクルが作れます。一方、大抵の場合中小企業の事業規模はグローバル企業ほどではありません。この環境の中で人材確保の観点だけでなく、現在働いている社員に対してもモチベーションを提供できるかが大きな課題となります。また、製品開発等に割ける資金の額も大企業と異なるため、大企業と同じ分野で競争することが難しくなります。
財政基盤
今回のコロナ禍でこの問題はより顕著になりました。ほぼ全ての企業が事業に大きな影響受けました。大手企業は毎年計上する利益を内部留保しており、資金が潤沢にあります。このためこの危機でもリストラや給与カットはほぼ行われていません。海外の報道を見ればリストラやレイオフ、最悪の場合、企業の倒産と行ったケースも見受けられ、日本の企業がいかに不況に強いかと言うことが証明されました。ただこれは多くが大企業の場合です。やはり中小企業となると大企業ほど潤沢な資金はありません。今回のような不況に直面すると事業規模を縮小せざるを得ない、あるいは事業を畳まざるを得ない会社も現れています。
米国の中小企業事情
アメリカの中小企業事情をご説明致します。2011年の経済産業省発表の資料によると米国の中小企業の割合は全企業のおよそ99.7%が雇用者500人未満の会社です。また、同年の被用者の割合は中小企業が48.5%となっています。中小企業の占めるGDPは2010年に全体の44.6%でした。こうにしてみると日本の雇用における中小企業への依存度が高いように見えます。
しかし、OECDの調査によれば日本の中小企業への雇用依存度は先進国の中で大差ありません。米国だけが突出して低いと言えます。また、米国の特徴として開業率、廃業率共に日本をかなり上回っています。日本の数字が開業率(5.6%)、廃業率(3.5%)であるのに対し、米国は9.3%、10%となっています。また、ご参考までに、この数字は米国が突出して高いわけではなく、先進国の中では日本が突出して低い数字となっています。この数字については中小企業庁の統計に詳細が載っていますので、こちらをご参照ください。
本日は以上となります。中小企業の明確な定義やメリット、デメリットをご紹介しました。中小企業は日本の経済を支えている重要な存在です。この企業を支えるため国は優遇措置を与えています。また、中小企業の働き方には大企業には無い魅力があります。